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岡村ちゃんが影響を受けたもの - 岡村靖幸「結婚への道」

結婚について真剣に考える独身の岡村靖幸さんがいろんな人々と対談していく本。多岐にわたる人選も対談内容も楽しめたのですが、岡村ちゃんの音楽を愛好する身としては、やはりその対談から「岡村ちゃんは何が好きで、何から影響を受けたのか」が気になります。なので主にそういう点について書いてみました。脱線も多いですがご容赦ください。

手塚るみ子さん

手塚治虫の愛娘るみ子さんとの対談。

1965年、昭和40年生まれの僕は、手塚治虫が大好きだ。(中略)小学生の頃は、少年漫画誌で連載されていた「ブラック・ジャック」や「三つ目がとおる」に夢中になった。

岡村ちゃんも手塚ファンだったんだ。たしかにこの2作品にどんぴしゃの世代だしなあ。手塚ファンとしてもうれしくなります。

あと、早速岡村ちゃんとは関係ないのですが、興味深かったのがこちら。

岡村:るみ子さんのご主人はどんな方ですか?
手塚:一言でいえば、手塚まんがをまったく読んだことのない人。
岡村:えー!外国の方なんですか?
手塚:いえ、日本人です(笑)。でも、漫画を知らない、アニメを知らない。
岡村:そんな日本人、います?
手塚:いるんですよ(笑)。本屋さんに手塚治虫コーナーがあると、「おい、キミのお父さんのコーナーができてるぞ!」ってビックリする人なんです。アトムもブラック・ジャックもよく知らない。というか、まったく興味ないんです。
岡村:そんな人いるんだあ!
手塚:だから基地なんです。基地に入れば、私は手塚治虫の娘でもなんでもない女性になれるんです。

るみ子さんの「結婚は自分の基地作りである」という言葉に関連して。るみ子さんはお父さんの業績をそのまま受け入れ受け継ぐ活動をされている方。そんな方でも、こういう「基地」に戻りたくなるんですね。ジョン・レノンの息子ジュリアン、ショーン、ポール・マッカートニーの子どもヘザー、メアリー、ステラ、ジェイムズはどうなのかなと思ったり。

関連メモ:


川上未映子さん

川上さんは、芥川賞作家同士で結婚され、子どもも授かっています。

岡村:子どもがいることで全能感を得て、満たされてしまうと表現に対してハングリーでなくなってしまうんじゃないかとも思うんです。(以下略)
川上:でもね、「子どもって表現以上のものをくれるな」とうっかり思ってしまう瞬間もあるんです。でも(中略)子どもを産んでから長編小説は発表していませんし。それは、さっきも言いましたが、心が満たされてしまったからというわけではなく、物理的にパソコンの前に行けないからなんです。

岡村ちゃんは本当にピュアに理想の結婚と表現者で居続けることの両立を模索しているのですが、実際に子どもを育てながら表現活動を続けている川上さんとのギャップが、皮肉ではなく興味深かった。

関連メモ:


藤井フミヤさん

またまた脱線、今度はフミヤさんが影響を受けたものについて。

  • プリンスとかにも夢中になったが、神のように崇める人はいないかなあ。
  • バンドを始めたキッカケはキャロルだから、矢沢さんがいなければいまの僕もいないかなというのはある

ちなみに、私はそんなに二人の年齢差を感じていなかったのですが(フミヤさんのほうが3歳くらい年上なだけ)、対談では完全に先輩後輩になってたのが印象的でした。


坂本龍一さん

岡村:ジョン・レノンとオノ・ヨーコはどう思いますか?(中略)いい意味で依存し合い、クリエイティビティを共有できる夫婦。僕にとっては究極のカップルだったりするんですが。
坂本:いいなあと思います。でも、そういう人と出会うのは難しい。(中略)だから、ある意味、「陰陽」のほうがうまくいくと僕は思います。
岡本:坂本さんのパートナーの方は(中略)?
坂本:そこはもう、完全に「陰陽」です。彼女は表に出ないオノ・ヨーコみたいな人なので。(中略)新しい曲が出来上がると、「ちょっと聴いて」って最初に聴いてもらうのが彼女です。(中略)いいことを言ってもらえると期待していると「ちょっと甘いわね」と一喝されてガックリくるという(笑)

岡村ちゃん、何度も何度も「ジョンとヨーコが理想」って語ってるんですよね。そのあたりのまっすぐさというか、そういう理想を50歳になっても持ち続けられるところがほんとに岡村ちゃんで彼の音楽ともつながってる感じがします。

教授とパートナーさんの関係は、村上春樹さんと奥さんの陽子さんの関係にも似ているなと思いました。

教授と言えば、岡村ちゃん、これも何人かに「その頃はまだYMOが散開してなかった」と語っています。吉本ばななさんも、アフターYMO,ビフォーYMOという表現に対し「YMOが基準だよね」と。そういう時代だったんだな、と改めて認識したり。


その他

岡村:僕が尊敬するミュージシャンは、みんな結婚して作家活動をしているんです。ジョン・レノンしかり、桑田佳祐さんしかり。

桑田さんのこと尊敬しているんだ。私は桑田さんの音楽も好きですが、これが意外・・・と思ってしばらくして、でも岡村ちゃんの音楽が絶対にポップさを失わないところやいわゆる「洋楽への憧れ」については、桑田さんの姿勢にもすごくつながっているなと勝手にうなずきました。


岡村:小さい頃ロンドンに住んでいたことがあるんです。1969年から3~4年。ちょうどビートルズの解散前後でした。4歳から小学校低学年くらいまでいて。子どもながらに、ビートルズは異常な人気があることに気づきました。

ピータ-・バラカンさんとの対談で。岡村ちゃんが帰国子女なのは知っていましたが、本人がこんなに語ったのは初めて読みました。小さな子どもとはいえ、あの時代にロンドンにいてビートルズを感じていたってすごい巡り合わせ・・・


岡村:この世界感や恋愛観が大好きという曲はありますか?自己投影ができる曲は。
ミッツ・マングローブ:それはね、竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」。
岡村:うわっ、同じだっ!僕も大好き!(中略)僕もね、激しい失恋をしたときにこの曲が沁みたんです。(中略)しかし、まりやさんって山下達郎さんと素敵な家庭を築いているじゃないですか。なのにこんなせつない歌が書けるなんて。その才能が素晴らしいですよね。
ミッツ:ずうずうしい才能だわ。大好きすぎてイヤになっちゃうんだけど(笑)。

表現の世界で生きている人たちは、表現と家庭(やパートナーシップ)の両立の難しさを知っているからこそこう感じるのかもしれませんね。それを考えるとやっぱりポール・マッカートニーは別格中の別格だと、ファンは思うわけです。



以上、主に岡村ちゃんが何に影響を受けていたかに絞って書きましたが、本題である「岡村ちゃんと対談相手の結婚観」もかなり興味深いものでした。また、いわゆる性的マイノリティの人たちが感じている今の日本での暮らしにくさも感じられ、そういうところは、こう書いていいのかわかりませんが学びになったように感じています。

そして、夫婦の物語としては、最後に収録されている鮎川誠さんの話が一番ぐっときました。シーナさんとのおしどり夫婦ぶりは一応知っていたつもりではありましたが、やはりご本人からのお話には特別なものがあるなと痛感しました。


(参考)ミッチーは岡村ちゃんにコンプレックスを抱いていた

別の本になりますが、最近出たこの本に、今度は岡村ちゃんが与えた影響について書かれてありましたのでご紹介しておきます。

プリンスへのコメントの中で、及川光博さんがこう語っていました。

本当に僕は彼(プリンス)の模倣からミュージシャンになったなと思います。これは岡村靖幸さんの存在が大きい。十八、九歳で岡村ちゃんを聴いたとき、「あ、大好きなんだな、この人も」って、シンパシーを覚えました。ぼんやりとした及川光博の目指すところを、まさに先輩としてうらやましいくらい成立させていましたから。ファンクに日本語の歌詞を載せていてしかもプリンスのような衣装を着て、ピアノも弾けちゃうところに、何とも興奮しましたね。岡村ちゃんに対するコンプレックスたるや大きかったです。

ミッチーはミッチーで独特の世界を築きショウビズ界で生き残り続けているのは立派だと思うんですが、それだけの力がある人だけに、岡村ちゃん唯一無二の才能の価値も若い頃からよくわかっていたのでしょうね。それは岡村ちゃんの「聖書」のカバーを聴いてもよくわかります。岡村ちゃんへのリスペクトがみなぎってるし丁寧この上ない仕上がりなんですが逆に「岡村ちゃんにしかできないこと」が露わになっているのです。


何はともあれ、影響を与え与えられし続ける存在として、これからも健康で活躍してほしいです、岡村ちゃんには。


関連メモ


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