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庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

インドで女性の地位が低い理由

本書のタイトル「女性のいない世界」とは、何を意味するのでしょうか。実は、アジアだけでも、本来ならあと1億6300万人の女性がこの世に存在したはずなのだそうです。日本の人口以上の、生まれてくることができたはずの女性が、生まれてきていない。

本書は、このような「女性のいない世界」の実態、原因、問題、対策と現状について詳細にまとめられた本です。


男女出生比率

本来、男性は女性よりやや多めに生まれるのが自然なのだそうです。その比率を男女出生比率といいますが、これの生物学的な上限は「女の子が100人生まれれば男の子は106生まれる」くらいなんだとか。それが、本書によると、1980年代は以下のとおりだったそうです。

  • 韓国、台湾、シンガポールの一部 109以上
  • インド 111(20世紀末)
  • アゼルバイジャン 115
  • グルジア 118
  • アルメニア 120
  • 中国 120

アジア、中央アジア、インドは女性に比べ男性が異常に多く生まれていることがわかります。なお、1977年、ソウルの医者は分娩1回につき中絶を2.75回行っていました。これは人類史上記録されている最も高い中絶率です。

では世界ランキングは?ということで、検索してみました。

The World Rankings 世界・女性出生1人に対する男性出生数ランキング(元データ:2012年 世界銀行(IBRD))

こちらで見ても、アジア、中央アジア、インド、ミクロネシアの一部が高いことがわかります(モンゴルなど例外もあり。日本も1.056でほぼ平均程度)。一方で、アフリカ南部は低くなっています。


なぜ女性が生まれてこない(中絶される)のか

上記の地域性についての考察は、残念ながら本書では分析されていないのですが、興味深い別のデータもあります。アメリカでもアジア系アメリカ人の妊娠は35%が中絶で終わっており、白人のほぼ倍なのだそうです。アジア人のもつ風土に、女性より男性を大切にするというこものが根強いのかもしれません。

その風土は、男性側だけでなく女性側にも見られるそうです。女性にも「産み分け・中絶」にインセンティブがはたらくと。それは・・・

  • 男子をもうけることへのプレッシャーがすごいから
  • 女性であることがどんなに大変かわかっているから

ということは、以上の情報だけで判断すると、アジア・その他の一部地域では、女性がより生きづらい社会ではあるようです。

ただ、こんな情報も併記されてあり、かつてはイギリスでも女性が同様に生きづらい世の中だったようです。

  • 19世紀半ばではイギリスで嬰児殺しが急増した(すみません、理由はメモし忘れました・・・)
  • 1864年、イギリスのすべての殺人事件の61%が嬰児殺しだった


インドで女性の地位が低い理由

さて、アジアの中でも、インドは女性の地位が低いことで知られています。先ほどの出生比率ランキング(女性の生まれてくる数が少ない→中絶されている)でも世界4位ですし、かつてはサティーという「未亡人は夫の火葬の火に飛び込んで焼け死ぬべし」というとんでもない習慣もありました(今もまれに行われているとか)。

本書では、この風土に拍車をかけたのは実はイギリスだと喝破しています。

  • 17世紀、イギリスはインドのキャラコやモスリンなどの織物の需要が大きかった。
  • しかしイギリスは対価としてインドに提供できるものがほとんどない。イギリスは羊毛がとれるが、インドの気候には合わない
  • そこでイギリスは、インドから税をより多く取り立て、そのお金でインドの製品を買うことにした

これでインドの人々は重税にあえぐようになったのです。そして・・・

  • 1793年 東インド会社はインドの土地管理システムを改革した。
    • インドの女性はこれで土地所有が許されなくなった
    • 農民も自分の耕す土地に対する権利を失う
  • その後イギリス人は伝統的なザーミンダール(徴税官僚)を廃止
  • ザーミンダールが突然収入を失ったことでカースト全体が圧迫 → 税がより高くなる → 娘は結婚の際高い持参金が必要なので邪魔 → 女児殺し

さすがにイギリスも、1873年にインドでの女児殺害取締法令を発表することはしました。しかし、このころには女児殺しは慣習になってしまっていた、というわけです。

インドには、結婚時の持参金問題など女性を生むことが負担となるような習慣がもともとあったわけですが、女児殺しを促進させたのはイギリス、ということです。改めて、国は覇権を握るととんでもないことを平気でするようになるなと感じた次第です。


日本は?

本書は、日本についての記述はごくわずかしかありません。上述のように、そもそも日本は(現代では)女児だから中絶、ということが一般的ではないですし。しかし戦後間もない頃については、以下の記述がありました。

(要約)アメリカ陸軍次官ウィリアム・ドレーパーは、日本の戦後ベビーブームは人口増 → 貧困 → 共産主義につながると考え、1948年の優生保護法成立に協力した。結果、1955年、日本人医師は出産より3割から5割多くの中絶を手がけていた。

データは本書になかったので調べてみました →odomonさん「年次統計・出生時男女比」(元データ:厚生労働省人口動態調査) これを見る限りでは、ほとんど影響は出ていないようですね。



男女比のアンバランスの何が問題か

さて、女性が生まれにくい/中絶されやすい世の中はそれだけで重大な問題ですが、そこから生じる男女比のアンバランスが、長期的にどんな問題をもたらすのか。なんとなくはわかっているつもりでしたが、本書ではそれをはっきりとあぶりだしていました。

  • 男女比がアンバランスになった場合、男性は年下の女性と結婚する傾向があるのですぐの影響は少ないが、しばらくするとより多くの男性が余るようになる
    • ex. 2020年代末までに、中国人男性の5人に1人が余る
  • 男性が余ると、先進国は花夢輸入を奨励するようになる
    • 台湾と韓国ではベトナム人花嫁が人気になっている(昔から中国の影響を受けてきたので儒教による上下秩序などの共通の伝統があるから)
    • 韓国のある地域は一時期ベトナムへのツアーを主催し、男性が女性を探しに行くときの費用を負担していたほど
  • このように、発展途上国の女性がより減少する危険性がある
    • 需要と供給の論理でいくと女性の価値が向上することになるので、女性の地位向上によいのでは?
      • たしかに女性の価値はあがるが、女性の地位が高まるとは限らない。両親に売られるかもしれないし、誘拐されるかもしれない。実際にそういう事件が頻発している
  • 男性ホルモンであるテストステロンは、攻撃性に関連している。
    • 結婚すると男性のテストステロン濃度が下がる
    • 結婚できない男性が増えると、社会不安が増大し戦争の危険性が上がる

よしてるは、最後の考察は考えすぎだと感じていましたが、こんなデータがあるそうです。

  • 1980年代の中国では、一人っ子政策の実施に省レベルの時間差があった。そのため、出生性比と犯罪の関連を調査しやすくなっている
  • 出生性比が早めに上昇(男性が増えた)した省では犯罪の急増も早く起きている
  • 出生性比が1%増加するとその地域の犯罪率を5〜6%上昇させる
  • インドでも、貧困率より男女比のほうが殺人発生率と相関が強い


対策は?

それほどの問題があるわけですから、対策を打っている国もあります。一筋縄ではいかないようですが、成功例もあります。

  • 中国:
  • 1989年に性別判定を禁止
  • しかし執行されてこなかったので、安徽省の小さな町巣湖(チャオフー)で啓発活動を強化
    • 女の子の親に助成金
    • 胎児の性別を判定する超音波装置の管理を厳しくした
  • そうすると、性比が1999年の125から2002年114まで下がった
  • 韓国:
  • 1987年に民主政治が実現すると、超音波検査と羊水穿刺の性別判定を法律で禁止
  • その後もおとり操作まで行って性別判定検査を取り締まった
    • 理由は将来の花嫁不足に対応するためだった
  • 結果、2007年に20年以上ぶりに正常な出生性比を発表し、世界で唯一、かつてアンバランスだった産み分け目的の中絶を一掃した国になった
  • 2005年、韓国の出生率は女性一人あたり平均1.08人という、世界で最も低い値になった。実はこれが出生性比正常化の最も大きい理由である
    • 韓国では、中絶は危険を伴うので、第一子は性別を気にせず産み、第二子以降で中絶を行うことが一般的だったから
  • 韓国は今度は、出生率そのもの(少子化)が大きな社会問題となっている

ちなみに国連等、国際機関ではどうかというと、男女比アンバランスに関する責任者はいないし、あまり重視されていないのだそうです。たとえば、FGM(女性器切除問題)は人権問題なので問題視されています。ユニセフも扱っているし国際啓発デーまであります。が、男女比アンバランスについては、たとえば「中絶により生まれるはずの女児が生まれてこない」と訴えると、ヴァチカンなどから「中絶そのものを禁止すべき」という突っ込みが入り、話が違う方向にいくため、あまり真正面から取り扱われないとのこと。



本書は、「男女比アンバランス」という、多くの人の間で「なんとなく問題だな」と感じられているトピックが、どれほど社会的影響が重大でかつ根深いものかを調べ上げてくれました。データを豊富に挙げ客観的な記載に努めている(同じ人の論が何度も登場するきらいはありますが)一方で、ベトナム人の女性が他国へ花嫁として売られていくのを阻止するNPOの取り組みなどはスリリングでダイナミックな筆致で描くなど、問題への関心を途切れさせることがありません。ピューリッツァー賞のファイナリスト作品というのも頷ける力作です。


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