風邪については、自分はある程度ことはわかっているつもりでいました。
たとえば、こういうことは一応知っていました。
- 風邪薬は風邪ウイルスを殺せない。症状を緩和するだけ。
- 抗生物質も効かない(参考:大幸薬品「病原体:ウイルスと細菌と真菌(カビ)の違い)」)
でも本書を読んで、自分が風邪についていかに無知かを思い知らされました。もっと意外で有用な内容が含まれていたからです。
大半の風邪ウイルスの侵入口は鼻と眼
- 70年の研究でもウイルスがたどりつく正確な経路は謎のままだが、空気感染と接触感染のいずれもが感染に寄与しているのは間違いない。
- 大半の風邪ウイルスの場合、鼻と眼が主たる侵入口となる。
- ロナルド・ターナーによると、インフルエンザウイルスは空気感染、ライノウイルスは直接接触が多いと考えられている。
てっきり口だと思ってました・・・鼻と眼に注意、ですね。
免疫強化は逆効果
- 風邪の諸症状はウイルスの破壊的影響ではなく、ウイルスという侵入者に対する身体反応の結果である。
- 免疫を強化すると、身体反応が活性化するので、症状はひどくなる。
え?それなら、いわゆる「風邪をひきにくい人」はどうなの?免疫が強いから風邪になりにくいんじゃないの?
- 風邪がひどくなるか軽くすむかは、かかった人による。「宿主要因(=かかった人しだい)」の風邪の症状への影響は40〜60%を占めると考える研究者もいる。
- いわゆる「風邪をひかない人」のウイルス抗体を調べると、風邪をひく人と同様に抗体を持っていることがわかった。ウイルスに感染している証拠である。
- つまり、風邪にはかかっているが症状が出ていない。
- ということは、実は「風邪をひかない人は免疫系が弱い」ということもできる。
本書によれば、人間は一般的に一生で風邪を200回くらいひくらしいのですが、仮に80年生きるとすれば年2.5回。私はそれよりは多く風邪をひきます。
ということは、免疫系が強いの?まあ強いというより、過剰反応気味なのかもしれません。先日メモした「寄生虫なき病」に書かれていた「アレルギーや自己免疫疾患は、免疫が効き過ぎるために起こる」という話と同じですね。
子どもの鼻水はなぜ緑なのか
- 子どもの鼻水が緑っぽいのは、免疫の強靱さを示している。白血球がどんどん鼻にかけつけると、粘液が白血球(好中球)に含まれる緑色の鉄含有酵素に染まるのだ。
汚い話で恐縮ですが、私自身も、子どもの頃と鼻水の色が変わってきたのはどうしてなのかと思っていました。わざわざその理由を調べることはなかったですが、思わぬところで答えを見つけることができました。
- 鼻水には血漿が含まれている。風邪ウイルスに反応して身体が炎症反応を起こすと、花の血管壁の細胞間隙が血漿は通すが赤血球は通さないほど「開き」、血管壁から血漿がにじみ出るのだ。
- 寒い戸外を散歩したりすると出る鼻水はまったくの別物で、吸い込んだ空気が肺に入る前に暖めて加湿するために出ている。
本当に人間の身体ってうまいことできているんだな、と。
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風邪の予防と対策
で、結局かぜをひかないようにするにはどうすればいいのか。本書に登場した対策をまとめてみました。
- 十分な睡眠をとり、体調に留意する
- 禁煙する
- 運動する(ほどほどに)
- 飲酒は控えめにする、または飲酒しない
- 休暇をとる、あるいはとらない(休暇のための調整が大きなストレスになると休暇が病気の原因になる)
- 人間関係の輪を広げる
- 免疫を強化しようと考えない
- 風邪をひいた人や子どもを避ける
- 手を頻繁かつ入念に洗う
- 手洗いは長さではなくテクニックの問題
- 手洗いではウイルスを殺せないが、手から引きはがすことはできる
- 引きはがすには、指の間や爪の中、アクセサリーまであらゆるものの表面を15〜20秒、入念にこする必要がある(こすり過ぎも禁物で、ウイルスが成長するひび割れなどをつくってしまう)。
- 公衆トイレを使用したあとで手を洗わない人の割合:ジョン・F・ケネディ空港では男性は38%、女性は15%。
- 家族の誰かが風邪をひいたら、場所を絞り込んで物体表面をきれいにする(冷蔵庫のドア、扉の取っ手など)
- 顔に手をやらない
5.の「休暇を取る準備にストレスがかかる」というのはわかる気がします。とくに旅行を計画している場合に多いかも。他の娯楽より多くの準備・予約で成り立ってるからでしょう。
6.の「人間関係の輪を広げる」は一見、つきあいが多いと風邪ウィルスに感染する機会も多くなるような気がしますが、これは人間関係を構築する人数ではなく、役割の数なのだそうです。対人関係が1〜3種類しかない人は、6種以上の人と比べて風邪をひく回数が4倍以上との調査もあるとか。
なんでそうなるのかは明確に書かれていません。個人的には、人間関係の役割を多くすると風邪にかかりにくくなるのではなくて、風邪にかかりにくい人はいろんな役割を引き受けたり任されたりすることが多い、つまり因果関係は逆なのではないかと思っています。
最後の「顔に手をやらない」は、これは本当に難しいです。私には無理だなあ。でもとても重要な対策のようです。
著者は、軽妙でユーモアのある語り口調でわりと気楽に読める内容でありながら、風邪についての新しいの知見をもたらしてくれます。
医学の世界は研究が進むとそれまでの常識が覆されることは多いようなので、この本の内容も鵜呑みにはしないほうがいいのかもしれませんが、本書の内容には根拠は明示されているのでトンデモというわけでもないと思います(同じ出典が続き過ぎるきらいはありますが)。
脳の片隅に「常備薬」を置くつもりで読んでおくといいのかもしれません。