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庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

なぜ女性作曲家は少ないのか?−福井一「音楽の感動を科学する」(2010年)

本・まんが 音楽

音楽が人間にどのような影響をどのようなメカニズムで及ぼすのか。それを考察した本です。

テストステロンと音楽

  • 200名の被験者に様々な種類の音楽を聴かせる実験を行った。
  • どんな種類の音楽を聴いてもテストステロンは変化した。
  • しかし、変化の仕方に性差があった。男性は音楽を聴くとテストステロンが減ったが女性は上昇した。
  • 音楽を聴くと男女とも中性化するということのようだ。
  • 16-20世紀のクラシック音楽家129名の作品2148曲について、それらの曲が作曲されていた月を集計したところ、3月と7・8月がもっとも多いことがわかった。これはテストステロンが多くも少なくもない中間値である時期と一致している。
  • ラットの雄は超音波で鳴いて雌を誘うが、この音声の発生にはテストステロンが必須。
  • カエルでもテストステロン値が高いと長い間泣き続けられる。
  • 以上のことから、テストステロンと音楽には関連性があると考えられる。

よしてるによる補足

  • テストステロンって男性ホルモン・・・ということくらいしか知らなかったのでちょっと調べてみました。 ニッスイアカデミーより引用「男性ホルモンのテストステロンは「男を形づけるホルモン」です。精子の生産など性機能に大きく関わり、筋肉や骨格、毛深さなどの性的特徴を発揮させます。闘志や攻撃性など精神面にも関わり、その男性の性格に大きな影響をおよぼしています。女性にもテストステロンはあり、女性の心身に少なからず影響をおよぼしていますが、男性と女性ではそのレベルに10倍から20倍の違いがあります。逆に、女性ホルモンのエストロゲンも男性にあり、脳や骨に働くことが分かっています。」
  • 職業との関連性 → 画家、俳優、音楽家、建設業、猟師、スポーツ選手、軍人は高い。牧師、教師、医師は総じてテストステロンが低い職種と言われているそうです。朝日新聞の医療サイトapital「テストステロンは『長寿ホルモン』男はつらいよ 医療篇」長尾和宏医師


女性作曲家が少ない理由

  • 脳の右半球に損傷が起こると言語能力は正常だが音楽能力が失われるという症例がある。よって右脳と音楽能力は関連していると考えられる。
  • 男性は自分の睾丸などから胎児期から大量のテストステロン分泌を受ける→左脳のニューロン構築を遅らせる→代償として右脳が発達
  • 男性作曲家は何らかの原因(遺伝、病気、ストレス)で、たまたま分泌異常が起き右脳(空間知覚認知能力に関連)が発達 → 優秀な作曲家
  • 女性には以上のプロセスが起こりにくいので作曲家が少ないのではないか

感想

小学生の頃から、なぜ教科書に載っている有名作曲家は男性ばかりなのか気になっていました。

もちろん、昔は女性が表立った表現者として活躍することが難しい社会事情があったということは理解しているつもりですが、そのわりには同じ時代に現代でも読み継がれている作品を生み出した女性作家はいます。例えば、ジェーン・オースティンとベートーヴェン、ブロンテ姉妹とショパンはほとんど同じ時代を生きていますが、同時期の女性作曲家を思い浮かべることは難しいです。日本なら、樋口一葉と滝廉太郎、与謝野晶子と山田耕筰もほぼ同じ時代を生きています(山田のほうが20年ほど没年が後ですが)が、結果は同様かと思います。この違いはなんなのだろうかと。

本書の考察は、具体的なデータが挙げられていないのでやや大胆に感じるものの、興味深いなとは感じました。


音楽能力と免疫

  • 音楽能力・数学能力・言語能力が高い人は男女を問わず他の人と比べて2倍もアレルギーになりやすい。
  • ゲシュヴィンドとガラバルダはこの理由として、左脳の発達の遅れ(その代償で右脳発達→音楽能力が発達)が、免疫機能に関係した組織(胸腺など)に障害が起こるのでは、と言っている。
  • テストステロンは免疫系を抑制する(免疫活動が低下し胸腺の成長も遅れる。寄生虫への抵抗も弱まる)

感想

これは非常に興味深いのですが、ここでもデータはなし。

個人的には、テストステロンが攻撃性に関わるのなら、攻撃を実現するための最も基本的な要件の一つと思われる「丈夫な身体の形成と維持」に反するこの作用がなぜ起こるのかが不思議です。


人間が子孫を残し生き残る上で、音楽はどう役立つのか?

  • 有力なのは「社会化説」「社会統合説」:音楽は情動に働きかけることで人間関係を円滑にし、お互いの協力を通じて、社会の統合や維持に役立つ。
  • この説の強みは、民族音楽学や文化人類学で明らかにされたさまざまな文化での音楽の姿と一致していること。

感想

これも以前から気になっていたことです。音楽にこんなに心を奪われるのはなぜか?こんなに影響を受けるのであれば、その理由があるはず、と。

別のある本では、音楽は「威嚇」の一種であり、男性が別の男性を驚かせ女性を得る競争に勝つためのツールという説を読んだことがあります。

しかし、実際には男性音楽家に魅力を感じる男性も多いので、それはどうかなと感じていました。

なので、この「社会化説」のほうがよりしっくりくる感じです。実際は、この説も含めた、いろんな「存在理由」が音楽にはあるのだと思います。


全体を通じた感想

以前から感じていた疑問に、ある程度科学的な視点から興味深い仮設を導きだしてくださっていることは評価したいです。

しかし、客観的な記述と主観的な記述(音楽への愛情や世相への不満など)が混在している点と、根拠データの記載が少なすぎるところは不満です。参考文献リストがないことにもがっかりしました(と思ったら、出版社のページに掲載している、との記述がありました。)。

読んで興味深かったけど、もっと根拠を具体的に挙げて欲しかったです。おそらく読みやすさを優先して現在のかたちになったのでしょうが、重要な箇所だけでもデータを明示されていれば、より納得して読めたと思います。

関連メモ:音楽は人間であることの一部−オリヴァー・サックス「音楽嗜好症」(2010年)