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ザ・ビートルズ+シルク・ドゥ・ソレイユ「LOVE」 2回目(ネタバレあり)

この日はラスベガス3日目なんですが、「LOVE」の2回目、22時開演分を観る以外は何事もやる気が起きない感じで、ホテルの部屋で寝転ぶかホテル内のバーで軽く飲むか、そんなふうにして過ごしました。私は旅行に行くと事前に下調べをして過密気味のスケジュールでいろいろ観たり遊んだりするのが常で、特に海外ではそうなんですが、この日は本当にいつもと違っていました。それほど胸中は「LOVE」だけに占められていたということなのでしょう。

さて、LOVE。昨日は舞台から離れた(と言ってもそんなに大きな劇場じゃないので舞台はちゃんと見える)高い位置、今日は対面の低い位置の席です。この選択、結果的にとてもよかったように思っています。ステージ近くの席から観ることで、昨日見えなかったいろんなものが見えたからです。

例えば、役者さんの表情と音(冒頭でロープを登る音など)がリアルに伝わったし、何よりあのアクロバティックな芸の迫力が違います。離れた席で観ても仰天するような動きが、間近だとさらに躍動感がほとばしる感じ。

とはいえ、昨日の奥の席のように俯瞰して観ないとわかりにくいところも多々あるのも事実です。ショウの全体像を把握するなら後ろの席が適していると思います。だから、ショウを1回だけ観るのなら奥の席がいいのでは、と言うのが同行者K君と一致した意見。


曲個別の演出について(以下ネタバレです)。全部じゃなく、特に印象に残ったものだけ。



冒頭で4人が「そろそろ?」「行こうか」なんて会話するところからまず心を奪われるわけですが、その後のBecauseのコーラスの後、The Endのドラムと最後のギターソロ、そしてスクリーンにはルーフトップコンサートの説明とその時の4人のシルエット。つまりビートルズの最後のライヴ。そしてその次はこの「LOVE」で!というファンなら誰もが夢見る「ビートルズのライブ」が現実になろうとしている-このことがわかりはじめたときにポールのGet Backのヴォーカル・・・目頭が熱くならずにはいられません。

I'm the Walrus 戦後のイギリスの貧民街っぽい雰囲気の中で子ども達が異常に大きなティーカップを持っているところなど、ふしぎの国のアリス的というかマザーグース的というかそういうイギリスっぽいイメージが喚起できてるなあと感心した後、はっ、それは曲の世界そのものじゃないかとうならされました。

I Wanna Hold Your Hand 初期の若いファンの熱狂を描いていました。泣きました。ビートルズが世界的な存在になったのはひとえに彼らの力が第一。そしてエピーやマーティン先生他いろんな人・出来事もなくてはならなかった。この奇跡に感謝していたのです。

次に4人のシルエットが登場、4人がふざけながらステージ上で会話しています。心憎い演出です。何言ってるか全然わからなかったのですが、4人がいきいきと楽しそうにしていたのでいいのです。

Something 空をたゆたう4人の女性に翻弄される一人の男。なるほどこの歌は女性の魅力を歌っているというのが一般的な解釈なんだろうけど、そういう表現もできるよな、と感心。

Being for the Benefit of Mr.Kite! これはシルクの本領発揮ですね。すごすぎて、これはジョンが想像したサーカスのレベルとは違うと思うよ・・・という苦笑いを終始しておりました(ほめてます)。ステージのあちらこちらで多彩な芸が同時進行、目が忙しくてしょうがないのですがさらに天井には360度ブランコ・・・この「ごった煮」感も曲のイメージそのもの。あと、改めて思ったこと。すんごいショウなんだけど、やっぱり「ビートルズのライヴの演出」であり「シルクのショウにビートルズの音楽が使われている」という順番じゃないんですよね。私はショウを観るまで後者だ思ってましたけど、実態は逆でした。

Help! 後述のRevolutionとともに、アクロバティック演出では一番わかりやすかった。曲に合わせてローラースケートで疾走+ジャンプ。子供に見せても喜びそう。

Yesterday 歌詞の世界をシンプルな演劇仕立てで表現。そうだこの歌はそういう歌だった、と基本を思い出させてくれました。

Within You Without You + Tomorrow Never Knows 巨大なシーツの海が会場に広がる。ステージから遠い席だと何が起こっているかわかりますが、近くだと席がシーツにのまれますので、視界はシーツに映ったサイケデリックな光だけになります。で、パフォーマー達が客席に乱入。私は後ろから頭をこづかれました(もちろん痛くはないです。楽しいです。)。

Lucy in the Sky with Diamonds 映像メディアではわからないパフォーマンスの筆頭のような気がします。ステージ上は基本たったふたり。空をかけめぐるルーシーと地上で巨大なはしご車輪を操るミシュラン人形みたいな男。それが本当にこの曲のイメージにぴったりなのです。写真だと相当地味に感じると思います。DVDだとなんかもっさりしたショウだなと思うかも。でも実際に目の当たりにするとイノセントで優雅で、素晴らしいものなのです。

Octopus's Garden はっきりわかりやすいオブジェではなく、適度に抽象化した感じで「海の底の世界」を描いていて、これも曲の世界をよくわかっている人が手がけたんだな。海を歩く人々が本当に水の中にいるようなゆっくりとした仕草、単純な芸ですが見事でした。

Here Comes the Sun 個人的にはこの頃のジョージの曲の割にはインドっぽさがあまり感じられないと思ってたけど、演出はめっちゃインド。で、これがまたはまっているんですよね。

Revolution これも観てて楽しかったなあ。怒れる若者(服装も60年代後半、西海岸の大学にいそうな感じ)が警察官の抑圧に負けずにトランポリンでステージを縦横無尽に飛び回る。ディストーションのかかったサウンドにぴったり。

しかしその直後のBack in the USSRは、スクリーンにソ連の軍事パレード風景を逆まわしにしたものが延々と。唯一安っぽい演出だなと思った箇所。終演後K君には、「けちのつけようなない素晴らしい作品でただ一カ所アメリカンな政治意識がささいな傷をつけている」という点で、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテロリストがリビア人という設定になっていることを連想するよ、と語ってしまいました。

While My Guitar Gently Weeps アコースティックギター弾き語りバージョン。ステージにはたった一人の女性。曲を的確に理解して無駄なものはそぎ落としている感が見事。

A Day in the Life 歌詞のとおりではなく、その一部(自動車事故)だけを切り取って、でも曲が持つ「想像力を最大限に引き出す力」は存分に活かしていました。なぜこのような悲劇の演出が?と思ったら、次がHey Jude、そしてAll You Need is Loveなんですね。なのでまさにこのショウのタイトルを全身に充満させてシアターを後にすることになるのです。

2回観てもその感動はいささかも衰えず、でした。役者の皆さんにももっと感謝の気持ちを伝えればよかったなあと強く思います。舞台が近いので、最後のカーテンコール的なところではアイコンタクトをとって、演技・アクロバットが特に印象に残った人にはピースサインを返したりしたけど、どうせなら立ってやればよかったよ。それだけの価値は十分にある演技であり「曲芸」だったのだから。

シルクによって、ビートルズのまた新しい魅力を発見しました。解散後40年以上たっても新しい魅力を生み出せる、恐ろしいバンドです。


この後私たちは結局寝ずに早朝空港へ向かい、シアトル経由で無事帰国しました。案内してくれた係員さんに、ラスベガスにおけるこのシルクの存在感の大きさはいつ頃からですかと訊くと、この10年でシルクがラスベガスのショウ勢力地図を完全に書き替えてしまった、ついこの間もロングランだった人気マジックショウが終わってしまい、皆が「ついにあのショウもシルクの猛威に敗れ去ったか」と言っていましたよ、とのことでした。

「LOVE」と友人との会話の二つに集中したシンプルな旅で、大正解でした。K君、ビートルズ、シルク・ドゥ・ソレイユ、ありがとう!


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