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庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

なぜ日本人は肥満でなくても糖尿病になりやすいのか

本・まんが 健康

NHKスペシャル病の起源〈2〉読字障害/糖尿病/アレルギー

TVで放送された、文字通り病の起源を探った番組を本にまとめたものです。取り上げられている「病」は3つ。これらについて、このブログをお読みの方の中にはすでにご存じの内容も多いかもしれませんが、私個人が新たに知ったことをメモします。

読字障害

他の知能に障害はないものの、文字の読み書きだけが非常に困難、という状態。別名ディスレクシア。村上春樹「1Q84」や宮部みゆき「模倣犯」にも登場しますね。

この障害はなぜ起こるのか。どうやら、脳の中で文字から音への変換ができていないとのこと。例えばイタリア語圏では英語圏より読字障害の発生率が低いらしいのですが、このことも「文字・音変換」によって説明できるそうです。つまり、イタリア語が英語より綴りと発音の対応がシンプル→文字から音への変換がしやすいから、発生率も低くなるということだそうです。

私個人も、これは思い当たることがあります。以前、学生時代も含め、英語を学ぶとき、私は単語の発音を知らないまま文を読んだり書いたりしていました。覚えることを少なくするほうがいいと思ったためですが、そんな中途半端な学び方では、当然成績はよくありませんでした。ところが、10年ほど前に「発音も『読む、書く、聞く、話す』のすべての行為に必要」と提唱しているサイト(松澤喜好さんの「英語耳」)を見つけ、書かれてあるとおりに発音を学び直し、読み書きするときも頭の中で発音するようにしたら、TOEICの点数が300点以上上がったのです。今思うと、英語においても「文字→音」変換のプロセスを組み込んだ結果なのかもしれません(それだけではないのでしょうが)。

いずれにしても、人間が文字を使うようになってたかだか5000年程度、一方でホモ・サピエンス(原生人類)が現れたのが25万年前と言われています。文字という「新しい」技術について、脳がそれに対応していないのはむしろ当たり前なのかもしれません。

糖尿病

通常、肥満がきっかけでなる病気ですが、日本人の糖尿病患者の75%は肥満ではありません。糖尿病患者のBMI平均はアメリカ人32.3、イギリス人29.4、日本人23.1となっています。これはなぜでしょうか。

理由は冷徹なものでした。ヨーロッパ人は数千年の間肉を中心とした食事を続け、大量の脂肪を摂取してきました。このため、多少の肥満でも糖尿病になりにくい、インスリンを大量に出せる人間(の遺伝子)だけが生き残ったのです。一方日本では、穀類と魚中心の食生活が続き、脂肪摂取量はヨーロッパ人に比べ圧倒的に少なかった(1日の摂取量は、15世紀のヨーロッパ人60g、江戸時代の日本人は15g)。そのため、インスリンが少量しか出せない人間(の遺伝子)も生き残りました。その子孫が、日本でも肉を食べるようになった今、肥満ではないのに糖尿病になりやすくなっているというわけです。逆に言うと、日本のこれまでの食事がいかに健康に適した要素が強かったか、ということもできますね。

ただ、質素な生活が行き過ぎても、糖尿病リスクは高まります。特に胎児・幼児期の影響は大きいものがあります。一例として、ナチスドイツ占領下に食糧不足に悩まされたオランダが挙げられます。その時期に母親の胎内で過ごした赤ちゃんの多くは体重2500g以下の低体重児だったのですが、彼らは胎児の時点で体が「省エネモード」→インスリンを節約→肥満になりやすくなってしまったので、成長し豊富な栄養環境下で生活するようになったときの糖尿病リスクが非常に高まっているというのです。これは、急激に発展を遂げている現在の発展途上国(例:インドの一部)や、やせ願望からカロリー摂取を抑えた母親のいる日本でも見られる現象とのこと。当たり前ですが、何事も、特に健康は、バランスが本当に重要なのですね。

アレルギー

日本で最もポピュラーなアレルギー、花粉症は日本人の約3分の1を悩ませているまでになっています。私の家族もそうで、本来気持ちよく外出できる季節につらい思いをする姿が気の毒です。これほど一般的なスギ花粉症ですが、初めて報告されたのは1964年。1950年代後半、日光市の製材業者の訴えが始まりでした。その後、戦後に植えたスギなどが成長するに従い花粉症人口は激増していったというわけです(現在40代以上の方は、花粉症がもともとはそれほどポピュラーでなかったということをご自身の体験からも理解されることでしょう)。このようなアレルギーはなぜ起こるのか。日本においては、なぜ戦後急増したのか。この基本的な問いにも、この本は応えてくれていました。

まず、アレルギーの起こる理由。それを知るための前提知識として、免疫細胞には2種類あるそうです。ひとつは細菌やウイルスを撃退する「細菌型免疫」。もうひとつは花粉やダニなどのアレルゲンを撃退するためのIgE型免疫(IgEは抗体の名前)。このうち、花粉症などのアレルギーはIgEが不必要に大量生産され、炎症物質の入っている細胞を傷つけてアレルギー反応が起こります。これは本来、ほ乳類が吸血ダニなどを撃退するための仕組みです。ダニが血を吸うとき、炎症物質を放出し、ダニをショック死させるというわけです。しかし、実はこのIgE型免疫が、アレルギーの主な原因とされています。この免疫は、なぜダニ撃退ではなく人間本人をアレルギーで苦しめるようになったというわけです。

そして、日本人におけるアレルギー体質の人の割合は昭和20年代生まれまでの人は40%、30年代以降生まれは80%となっています。この違いは1歳頃までの生活環境に寄るところが大きいそうです。この時期、適切な量の細菌に接触すると、細菌型免疫が発達しIgE型免疫は少ない、つまりアレルギー反応が起こりにくくなる状態になるとのこと。特に、家畜と生活を共にしているとアレルギー反応が起こりにくくなる可能性が指摘されているとのこと。研究では、遊牧民の多いモンゴルにはアレルギー体質の人が少ないことや、オーストリア・ザルツブルグでも小さい頃から家畜小屋に出入りしていた子どもはその後アレルギー体質になりにくいことがわかっています。

つまり、幼児期にある程度の細菌に触れないことが、IgE型免疫を活性化させ、アレルギーを引き起こすというわけです。戦後の日本では、衛生状態が急激によくなったため、IgE型免疫が活性化された状態の人が増え、アレルギー体質の人が急増した。これが冒頭の基本的な問いへの回答と捉えてよさそうです。

しかし、不潔であればよいというわけではもちろんありません。戦後日本では、衛生状態がよくなることで様々な伝染病リスクが低下しています。不潔なままの社会であれば、別の病気等で多くの人が苦しんだことでしょう。ここでもやはり重要なのはバランスというわけです。


以上、3つの「病」の「起源」についてメモしましたが、共通しているのは「人類の歴史から見て、ここ最近の環境変化が大きいため、それまで適切だった身体機能がうまく働かない状況」ということなのかなと思います。「それまでの成功法則が今は役に立たなくなっている」「しかし中には引き続き役に立っているものもある」これは、マクロでもミクロでも散見される事象です。これに対応していくには、アンテナをしっかりはって、適切な判断と行動を続けていくことしかないのかなと思った次第です。もちろん、いくら対策をとってもなんともならないことが多いのも事実ですが。