庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

マッサージにおける不正保険請求が最も多いのは大阪?-吉田あつし「日本の医療のなにが問題か」

日本の医療のなにが問題か

タイトルとは異なり、日本の医療を経済学の視点で捉えた本です。しかり、「看板に偽りあり」(きつい言い方ですが)ではあるかもしれませんが、羊頭狗肉ではない(内容は充実している)と感じました。医療の現状について豊富なデータを用い、極めて客観的に、しかし著者の意見もデータとはきちんと峻別して述べられていましたので。興味深かった点をメモします。

保険のきくマッサージにおける不正請求の疑い−最も多いのは大阪?

柔道整復師(整骨院・接骨院等)は国家資格であり、医療類似サービスのうち打撲・ねんざについては医師の同意を必要とせず保険請求ができる。しかし、保険請求ができない通常の肩こりや腰痛にまで保険を適用しているのではないかと以前から疑われてきた。そこで、厚労省が2007年に調査した結果、老人一人あたりの柔道整復費は、上位3つの大阪23155円、東京12471円、和歌山11852円に対し、下位3つは沖縄1092円、島根1014円、鳥取548円となっている。この差は、不正請求の可能性を大きく示唆している。柔道整復医療費は2005年度で3100億円に上り、これは歯科医療費の8分の1にもなる額であるから、大きな問題と言える。さらに問題なのは、不正請求をするには患者の暗黙の同意が必要なことである。保険請求をするには患者の委任状が必要だからだ。

これは大変に耳が痛い指摘です。私自身、今まで問題を軽視していたことに気づかされました・・・

「医師不足」と女性医師数の関係

「医師不足」が叫ばれているが、厚労省は医師の総数には不足がなく、診療科間の医師の配分に問題があるとしている。このことについて、医師の間でひそかに語られていることがある。それは女性医師の増加が医師不足を招いているということだ。女性医師の比率は1980年までは10%程度だったが、2004年には16%まで到達した。しかし、診療科別で見ると、皮膚科や眼科は30%以上なのに、外科系診療科や泌尿器科では5%以下である(外科系は体力が必要だからだと思われる)。これにより、外科医師の供給が少なくなってきている。また、女性は男性より10年近く早く病院勤務をやめ診療所に移る。産婦人科・小児科は女性医師が比較的多いが、これらの病院勤務医は不足しがちになる。

もちろんこの本では、これ以外にもいくつかの「医師不足」の原因を挙げていますが、この視点は新しいものでした。なお、この事象を改善するため、診療科目の自由選択制をやめ定員制とすることが提言されています。

健康保険の差異

65歳以前の国民が加入する日本の健康保険を大きく3つに分けると、国民健康保険(市町村が運営、自営業者やサラリーマンOBが加入)、組合管掌健康保険(企業や業界団体が運営、サラリーマンが加入)、政府管掌健康保険(厚労省の公法人が運営、組合保険制度のない会社・業界のサラリーマンが加入)となる。このうち、一人あたり診療費では、国民健康保険だけ他2つより6万円ほど高い。理由としては、国民健康保険加入者は低所得者が多いので健康リスクが高いこともあるが、レセプト審査を地元の医師が行っているので、どうしても身内に甘くなっているということも考えられる。

外国の保険制度概要

イギリスは保険制度を国が一元的に管理しておりすべての医療をカバーしているが、病院や治療法を選択できない(日本の義務教育に似ている)。アメリカは民間が主となって医療保険を提供している(自動車保険に似ている)。


客観的なデータに基づいた現状把握と問題提起って問題解決の基本だと思うのですが、そのとっかかりとして興味深く適切なデータを提示してくれる本でした。


(広告)