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庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

眺めのいい部屋

映画・ドラマ・演劇

眺めのいい部屋 HDニューマスター版 [DVD]

[物語]
20世紀初頭。イギリス中産階級の令嬢ルーシーは、付き添いの中年女性シャーロットとフィレンツェへ赴く。泊まる部屋は、希望とは異なり眺めが悪かった。そのことをシャーロットが宿のディナーで口にしていると、エマソン父子が聞きつけ自分たちの泊まっている眺めのいい部屋を提供しようともちかける。シャーロットは当初エマソンたちをがさつな存在と見下し拒否するものの、牧師が間に入り結局は部屋を交換する。

ピクニックに出かけたルーシーたち。そこで息子ジョージ・エマソンルーシーの唇を奪う。偶然それを見かけたシャーロットは動揺し、旅の予定をキャンセルしイギリスへ帰国。その後上流階級のセシルと婚約したルーシーだが、情熱的なジョージとスノビズムあふれるセシルとの違いを意識することが多くなり・・・

[感想]
他のジェームズ・アイヴォリー監督の作品(「ハワーズ・エンド」についてのメモはこちら)同様、というかこの作品こそが元祖というべき存在なのですが、ため息が出るほど美しい絵画のような映像で彩られた作品です。陽の光、花や草木、建築や調度品、コスチュームや美男子たちなどもそうなのですが、圧巻はルーシーを演じるヘレナ・ボナム=カータ。工芸品の傑作のような美しさに加え、普段は近寄りがたい硬質な表情をしていながらときおり見せる笑顔がとびきりです。コスチュームの似合いぶりもあいまって、この映画のこの役のために存在しているようなはまり具合。後年、「ファイト・クラブ」でエキセントリックな女性を、「チャーリーとチョコレート工場」で極貧のお母さんを演じることがちょっと信じがたいくらいです。

しかし今日、「午前十時の映画祭」でこの作品を鑑賞3回目にして初めて映画館のスクリーンで接し、上述した美を視界いっぱいに受け止めて思ったのは、この映画のもつ本当の力はこれらの映像美ではなく別のところにあるのでは、ということです。それは、この作品のテーマ「心にはまっている枠にとらわれず、感じたままに生きよう」を、様々な様式美 −「枠」にはめられた美しさ− で表現しているという一点につきます。例えばBilly Joelは似たようなテーマを"Only The Good Die Young"で歌にしています。無論これはロックです。ロックでこのようなテーマを歌い上げるのは、それほど珍しいことではありません。しかし、この作品は、一見「感じたままに」というテーマとはかけ離れているような様式と格式の世界を見せながらこういうテーマを提示している。いや、「感じたままに」というのは少し上品すぎるかもしれません。むしろもっと人間の本能に根ざしたような感情を肯定するような、そんな力強いメッセージを感じます。この映像美とメッセージの乖離が産む力こそが、この映画をただの「映像の美しい映画」とは一線を画しているのではないか。そんなふうに考えた次第です。

といいつつ、この作品のBlu-ray版が出たら買ってしまうだろうなあ・・・そしてそのときは、今日のように映像とメッセージの乖離を堪能することにします。