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幸福度が低い人の傾向とは? - 大竹文雄・白石小百合・筒井義郎「日本の幸福度 格差・労働・家族」

日本の幸福度  格差・労働・家族

この本は、アンケート結果を分析することで、日本に住む人のうち、どんな人が幸福だと感じている/いないことが多いのかを調査したものです。いつものように、印象に残った部分をメモします。


幸福度が低い人の傾向

例えば、地方在住者より都市部在住者のほうが、学歴の低い人よりも高い人のほうが、自分を幸福だと感じる傾向があるそうです。それらをまとめると、幸福度が低い人の特徴は以下のようだとか。

ひなびた村に住む年寄りで中学校卒、職業は販売職。年のせいか健康にすぐれず、結婚はしなかった。所得も資産も少なく来年増える見込みもないので、借家住まいである。貧しいせいではないが、他人はもちろん親しい人にもお金をあげようと思ったことはない。他人の生活が気になり、「質素な生活がしたい」と自分に言い聞かせ、「お金を貯めることが人生の目的だ」が信条。無宗教でヘビースモーカー、そしてかなりせっかちで心配性かも。

所得が多ければ幸福度は高いなど、当たり前に感じる部分も多いのですが(でも多ければ多いほどいいのは年収631万円まで、という調査結果もありますね)、意外だったところもあります。それは、地方在住者は都市部在住者より有意に幸福度が低いこと。これも、所得の差などが影響しているのでしょうか。

[調査方法等]大阪大学COEによる(2004年2月に訪問留置法により20歳から65歳までの全国の6000人を調査)アンケート内容:「全体として、あなたは普段どの程度幸福だと感じていますか。「非常に幸福」を10点、「非常に不幸」を0点として、あなたは何点ぐらいになると思いますか。当てはまるものを1つ選び、番号に○をつけてください。」


結婚の幸福度は何で決まるか

これもまあ結果は納得しやすいものが多かったのですが、意外だったのが以下の内容です。

結婚の幸福度の決定要因について、驚くべきことに日本の男性はアメリカの女性に似ている。自分自身の所得と結婚の幸福度は関係しているが、配偶者への経済的依存度や配偶者の所得は結婚の幸福度と関係しないという点である。一方、アメリカの男性と日本の女性にも共通点がある。自分自身の所得は結婚の幸福度と関係がないということと、配偶者の所得が低いより高いほうが結婚の幸福度が高まっているという点である。ただし、アメリカの男性の場合、幸福度が高いのは「自分が唯一の稼ぎ手」か「妻に経済的に依存している」の両極端に二分される点が日本の女性と異なる。

これらから成り立つ、本書で述べられている仮説は次の通り。

日本は「男性は市場での労働に専念し、女性は家庭に」というモデルがまだまだ一般的だが、アメリカは伝統的な役割分業の考え方が弱まっている。そして、離婚が日常的なアメリカの場合、女性が夫に経済的に依存していると代償が大きくなるので、それを避けるため経済的自立を意識しているからだとも考えられる。また、日本では妻が夫の所得を管理する(61%の家庭で夫の給料のすべてが妻に渡されており、80%以上の回答者が家計のやりくりは妻の役割と考えている)が、アメリカではそうではないため、夫の所得が妻の幸福度に重要とならないと言えるかもしれない。

結婚の幸福度が、こういった社会的な要因にも左右されている(だから国が違えば傾向も変わる)という点、なかなか興味深いです。人と人とのつながりが基本にあるだけに、幸福度を感じる条件は普遍的なものだと考えていたのですが、それだけではないようです。
[調査方法等]General Social Surveyのデータを使用


アメリカと日本の比較では、次の結果も興味深かったです。

仕事のタイプと幸福度


日本
幸福度が高い:公務員、管理職・専門職、金融、大企業勤務
幸福度が低い:自営業・パート労働者、農業、不動産、零細企業勤務
アメリカ
幸福度が高い:パート労働者、管理職・専門職、鉱業・農業、1000人〜4999人規模の企業勤務
幸福度が低い:雇用者・自営業、ショップ店員、運輸・製造、零細企業または5000人以上規模の大企業勤務

他人と自分を比べる人は、日本の場合、自分は下だと感じ不幸になるが、アメリカでは自分は他と同じだと感じ幸福になる。

なぜこのような違いが生じるのか、その考察はありませんでしたが、知りたいなと思います。本書に出ているグラフ、例えば幸福度を感じる職種・業種の違いなど、けっこう違うんですよね。同じような仕事なのになぜ?あるいは職種・業種が同じように見えて実はけっこう違うのか?興味はつきません。

[調査方法等]
日本:大阪大学COE月次データ(2005年8月〜2006年9月に訪問面接法で全国の20歳以上2000人について調査
「くらしの好みと満足度についてのアンケート(2004年〜2007年に訪問留置法を約1万サンプル収集)
アメリカ:大阪大学COE月次データ(2005年8月〜2006年9月に郵送法で20歳から64歳の5900サンプルを収集)


女性と労働について

20〜40歳代の女性についてこんな結果が。

・結婚している人が働いていると幸福度は低下するが、非婚で働いている人は幸福度が上昇している。

・子どもを持つことは幸福度を高めるが、生活満足度は下がる。ただし子育てしながら働いている場合は、子どもがいなくて働いている人より生活満足度が高くなる。

男性に比べると、女性はいろんな選択肢がある(もちろん男性だっていろんな選択肢はあるのですが、選択結果別のばらけ具合は女性よりかなり狭まっている)ので、その分いろんな幸福度の感じ方があるのかもしれません。

調査方法等:家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査」データを使用


別の結果

と、ここまで書いておいてなんですが、同じような調査でも調査結果が微妙に違うものもあります。参考にメモしておきます。

・幸福度は若年層で高く、40歳前後で最も低くなり、それより上の年齢では高くなる。

新たな発見としては以下のとおり。

・女性のほうが男性より幸福。
・失業等は、それによる所得水準などの経済変数をコントロールした上でも、日本人の幸福度にマイナスを与えている。

2点目について言えることとしては、日本人の失業者へのフォロー政策は、金銭的再配分よりも、同額の資金で仕事を創出したほうが幸福度が高まるというものです。

[調査方法等]
「くらしと社会に関するアンケート」(2002年、20歳から65歳までの全国の6000人に郵送調査(経済・就業状況、幸福度等について)
経済企画庁「国民生活選好度調査」


いくつかメモを書きましたが、もちろんこれは、普遍的な幸福への処方箋としてご紹介しているわけではありません。私が興味深く思ったのは、幸福になるための条件は人によって違うはずなのに、統計をとるとなんらかの傾向というものが出てきている、という事実そのものです。こんなに「人それぞれ」で千差万別になるだろうと思っていたものにも、統計上有意な傾向が出てきているところにおもしろさを感じた次第です。


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