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庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

大石繁宏「幸せを科学する」

幸せを科学する―心理学からわかったこと


これは、心理学的見地から「幸せ」を考察した本です。

って、「幸せ」って多くの人にとって一番関心のある心理状態だと思うんですが、なぜそんな本が今ごろ?といぶかしむ方もいらっしゃるでしょう。私もそう思いました。しかし、これまでの心理学では、幸福感を実証研究することは哲学的な問題と同類とみなされており、1980年代までは「研究するだけ無駄」と考えられていたらしいです(イリノイ大学のエド・ディーナー教授の話)。

この本では、文化と幸福感の関係、経済・運・結婚・友人関係と幸福の関係、最適な幸福度とはどの程度か、など、多面的な実験結果と考察を加えています。その中で気になったものをメモしておきます。枠内はよしてるによる要約です。


カリフォルニア大学サンタバーバラ校のヒィージュン・キム教授とスタンフォード大学のヘイゼル・マーカス教授の研究によると、研究協力者のお礼にペンを選んでもらう場合、5つのペンのうち一つだけ違う色のペンを入れておくと、欧州系アメリカ人の77%がその異なる色のペンを選んだ。アジア人の場合は31%だった。

西洋人に「有名人の○○に似ているね」というのは褒め言葉にならない、と聞いたことがありますが、それは本当なんでしょうね、この実験結果からすると。


「サイエンス」誌に発表されたカスピらの研究によると、不幸な出来事への「免疫」といえる遺伝子が存在する。それはセロトニンの運搬遺伝子5-HTTである。この遺伝子の塩基配列のタイプによって、不幸な出来事とうつ傾向の相関が強かったり弱かったりする。ニュージーランドの双生児1,037人を調査した結果、このことが判明したという。

生来体の丈夫な人とそうでない人がいるように、メンタル面でも丈夫な人とそうでない人がいるのですね。これは人によってはけっこうショッキングな研究結果かも・・・


「幸せ」と直接関係はないが、広く浅い人間関係には強みがある。マーク・グラノヴェッターの研究によると、今の職を得たきっかけを質問したところ、56%の人が知人を通して、ということだった。しかしその知人にどのくらい頻繁に会うかを尋ねたところ、55.6%が「たまに会う」、27.8%が「めったに会わない」だった。

これは国によって事情が違うのかもしれませんが、このことは玄田有史さんの「14歳からの仕事道」でも触れられていたことからすると、日本でも有効なのかもしれませんね。


ミネソタ大学のデイヴィッド・リッケン教授とアウカ・テレガン教授の研究によると、幸せかどうかは80%は遺伝で決まる。これは、一卵性双生児と二卵性双生児の幸福感を測定したところ、647組の一卵性双生児では相関係数が0.44であったのに対し、733組の二卵性双生児では0.12であったことに起因する。0.44-0.12=0.32だが、両者の遺伝共有率からこれを2倍した0.64が遺伝係数となる。しかし、幸福感の測定には誤差があり、その信頼性は80%であった。このことから、0.64÷0.8=0.8(80%)が最終的な遺伝係数。ちなみに身長の遺伝係数も同じ0.8くらいであるが、実際の幸福度は身長と異なり当然変動性がある。

これもショッキングな研究結果ですが、はたと気づいたことが。リー・クアンユーが言っていた「人格形成は80%は遺伝で決まるということがミネソタの研究で明らかになっている」という話の出典はこれか!ちなみに、著者はこの二人の教授と知己があるそうなのですが、彼らは徹底した実証主義者だったそうです(つまり、環境の影響力が実証されればそれを受け入れるはず)。


ミシガン大学とギャロップ社が共同で行なった研究によると、「人生の満足度」国別ランキングでは、1.スイス 2.デンマーク 3.アイスランド 4.スウェーデン 5.カナダで、ワースト5は36.ルーマニア 37.ラトビア 38.ベラルーシ 39.ロシア 40.ブルガリア。日本は26位。このランキングから推察されることは、国内総生産と幸せランキングの相関(係数0.58)で、豊かな国は幸せな国ということ。ただし日本と韓国だけは例外(豊かだがそれほど幸せではない)。また、人権の保護と幸せも相関が高い(0.48)。下位の国には旧共産圏の国が多いが、これは調査時期が1980年代の終わりから90年代の初めにかけてという、民主化への過渡期、混乱期であったことが影響しているとみられる。

著者も述べているのですが、高福祉国家が上位に来ています。この結果だけを見れば、税負担は重くとも社会的セーフティネットが整備されている国は満足度が高い、と言えるのかもしれませんね。


けっこう冷徹な部分ばかりメモしましたが、この本はそれだけのものではなく、幸せに影響する行為とは何か、とか(ずばり「感謝」)、そういう前向きな研究結果についても記述されています。総じて、心理学の研究者のみなさんには、幸福感についてこれからも研究を重ねていっていただきたいなと思えた本でした。