庭を歩いてメモをとる

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山崎豊子「沈まぬ太陽」

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下) (新潮文庫)沈まぬ太陽〈3〉御巣鷹山篇 (新潮文庫)
沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)

[物語]
著者曰く「登場人物、各機関・組織なども事実に基づき、小説的に再構築した」小説。日本のフラッグシップエアライン「国民航空」の恩地元は、1960年代前半、請われて就いた労組委員長の立場で、空の安全と劣悪な従業員待遇の改善のためストライキを実行。その後恩地は会社側に危険人物とみなされ、左遷人事としてカラチ、テヘラン、ナイロビをたらい回しにされる。10年ぶりに東京に戻った後、国民航空は死者520名の航空機墜落事故を起こし、恩地はそのご遺族お世話係となる。そんな中、国民航空再生のため首相に請われて外部からやってきた国見会長は再建に力を尽くすが・・・

(以下、「御巣鷹山編」を除いての感想です)
これはたしかに読んで面白い小説でした。批判はあると思います。どこまでが事実でどこからが虚構かわかりにくい。日本航空を批判する立場からしか書いていない。登場人物の善悪がはっきりしすぎている。主人公恩地元が立派すぎて現実味がない。文章に妙に読点が多い・・・

それでも、やっぱり面白いのです(楽しい話ではないのですが)。変な伏線などがないストレートなストーリー、絵に描いたような善悪の登場人物、ドラマティックな展開と描写(山崎さんの小説がよくドラマ化される理由がなんとなくわかった気がします)、そして何より、丹念で膨大な取材。これだけの材料がそろっていれば、続きが大いに気になる小説になるのは当然かもしれません。

(「御巣鷹山編」について)
しかし、日航123便墜落事故そのままで、被害者が実名で登場する「御巣鷹山編」は、「面白い」とはとても言えません。あの事故がどれほど凄惨なものだったのか、そしてどれほどの人々の人生を変えてしまったのかをずっしりと心に刻みつけられました。この事故、リアルタイムで報道に接していたのに、何にもわかってなかったんだなと恥ずかしくなりました。

ここまで書くなら、ドキュメンタリーを書いてほしかったという気持ちもなきにしもあらずですが、山崎さんは小説という形で伝えたいことをしっかり伝えてくださった、それが山崎さんにとっての最良のやり方だったのだとも思います。

山崎さんの他の作品も読みたくなってきました。


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