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駅売りCDはなぜ合法なのか - 岡本薫「著作権の考え方」(4)−伝達者の権利

(1)著作権

┣著作権(著作者の権利)
┃┣(2)人格権(無断で改変、公表、名前表示を変更されない権利)
┃┗(3)著作権(財産権)(無断でコピー、公衆伝達されない権利)

┗著作隣接権(伝達者の権利)
 ┣(4)人格権 → 実演者のみ
 ┗(5)財産権 → 放送局、レコード会社、実演者等

今回が最終回です。前回の(3)著作権(財産権)の次は、著作隣接権についてまとめてみようと思います。

著作隣接権

この権利は、著作者とは別に、著作物を伝達する側(レコード会社など)に与えられる権利です。著者の岡本氏曰く、この権利を理解するポイントは、「要するに業界保護の権利」であるということだそうです。では、この権利、中でも「(7)財産権」(以降、「(5)著作隣接権」で総称します)はどんな場合に発生するのかを見ていきましょう。

・音楽の場合は、伝達者つまりレコードのクリエーター(レコード会社)は「(5)著作隣接権」で保護される。
・映画の場合は、前回にも記したように、映画のクリエーター(映画会社)は「(2)著作権(著作者の権利)」で保護される。
・本の場合は、本を製作(文章などを印刷して人々に伝えること)する出版社には何の権利も与えられていない。そのため、本をコピーするときには、著者の了解を得るだけでよい(出版社が創作的に文章等の選択・配列をおこなっている場合などは別)。

同じ「著作物の伝達者」でも、与えられている権利が全然違うことがわかります。これはなぜか?岡本氏曰く、業界の政治力の差、だとのことです。その例として、出版社が政治力を持っているイギリスでは出版社に「(5)著作隣接権」が与えられていること、アメリカではレコード業界が同様に力を持っているためレコードに「(2)著作権(著作者の権利)」が与えられていることが挙げられています。ふうむ。

ちなみに、音楽・映画の両方を扱う放送業界については以下のようになっています。

・放送局自身が制作した録画放送番組は、映画として「(2)著作権(著作者の権利)」で保護されると同時に、「(5)著作隣接権」も持つ。
・放送局は著作物ではないスポーツの試合を放送しても、その番組に「(5)著作隣接権」を持つことができる。

音楽のオンエアについても事前の許諾ではなくJASRACへの事後承諾でOKなのは前回のエントリに書いたとおり。もちろん、放送局の業務内容を考えたら、これらの権利もまああって当然という気はしますが、やはり他業界にくらべ権利が強い印象。それだけに「まねきTV判決」にはびっくりしているでしょうね・・・(個人的には判決は妥当だと思います。)


音楽についての例(1)−原盤制作

今回も、安藤和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス」(1995年初版)から、音楽についての「著作隣接権」を見ていきます。

レコード会社のもので「著作隣接権」で保護されるのは、「ある音を最初に固定した録音物」です。マスターテープのことですね。ところでこのマスターテープ、制作にいくらぐらいかかるのでしょうか。

・アルバムで2000万円、シングルで400万円が平均といったところ。
・演歌系は概して安く、シングル2曲を100万円、アルバムを500万円くらいで制作した例もある。
・ニューミュージック系は高く、アルバム1枚に1億2000万円かけた例がある。この場合、採算ラインは50万枚だったが、100万枚以上売れた。
・制作費の内訳例としては、スタジオ使用料が最も高く57%、次に演奏料が25%となっている。

個人的には、スタジオ使用料がそんなにかかるものだとは思っていませんでした。これは1995年の話なので、今ではもっと高いのかな?とにかく、原盤制作には相当な費用がかかることはわかりました。まあミュージシャンによってかかる費用は全然違うんでしょうけど。だから粗利の高いミュージシャンとそうでないミュージシャンとかありそう。


音楽についての例(2)−駅売りCD

そんなにお金のかかる原盤制作ですが、それから考えると謎なのがいわゆる駅売りCD。古めの洋楽が980円とかで売られているあれです。今もショッピングセンターなんかで時々ワゴンセールに出されたりしていますが、あれってどうなんでしょう。JASRACのシールが貼られているから海賊盤ってわけではなさそうだし(そんなこと言ってお前は海賊盤を聴いたことがないのか、と言われそうですがそれはまた別の話として)・・・これについても、「よくわかる音楽著作権ビジネス」できちんと解説されていました。結論からいうと、

1967年以前の輸入盤レコードからは、レコード製作者や実演家に無断で複製、頒布することができる。もちろん製造販売業者は、その際に著作権の処理の義務を怠ってはならない。

要は、駅売りCDは日本において「(5)著作隣接権」の保護期間が切れているものなのだそうです。原盤制作者への支払いがないから安いんですね。どういうことかというと、

・1970年、現在の著作権法の制定当時は、著作隣接権の保護期間は20年であった。
・1988年、保護期間が30年に延長された。しかし、当時既に保護期間が終了しているもの、すなわち1967年以前のレコードについては、著作隣接権が終了したままであることとした。

その後1991年にも保護期間がさらに50年に延長されましたが、1967年以前のものについての措置は同様でした。そのため、いわゆる駅売りCDは合法ということになっているそうです(もちろん、それらのCDに関しても、「(4)著作権(財産権)」に関しては保護されているので、JASRACを通じ著作権者に使用料が分配されるようにする手続きは必要。それをすませてあるからJASRACシールが貼ってあるわけですね)。

となると、ビートルズのデビューは1962年だから、5年後の2012年にはデビュー曲「ラブ・ミー・ドゥー」の著作隣接権は切れるってこと?(イギリスも著作隣接権の保護期間は50年)どうやらそのとおりのようで、クリフ・リチャードらが「期間を95年に延長してほしい」と英国政府に求めているそうです。クリフの気持ちはわかります。50年代からたくさんのヒット曲を持って今なお現役なんですから。


音楽についての例(3)−レンタル

原盤制作といえば、CDにして売るのはともかく、レンタルも相当な幅をきかせているのが実態。かくいう私もかなりのCDをレンタルで聴いています。このレンタル料はどうやって原盤制作者にいっているんでしょうか。

・レンタルCD店 → 卸問屋 → 日本レコード協会 → レコード会社(原盤制作者)または
・レンタルCD店 → 卸問屋 → 日本レコード協会 → 音楽出版社協会 → 音楽出版社またはプロダクション(原盤制作者)
つまり、2カ所または3カ所でそれぞれ手数料が引かれる。
・レンタル料は、メーカーから卸問屋に出荷される際に仕入れ代金に上乗せされており、その額は現在(1995年)アルバム1枚330円、シングル1枚85円。

間にたくさんの団体が入ってそれぞれ手数料が引かれているんですね。もともとのレンタル上乗せ料も安い(個人的にはそう思う)のに・・・とはいえ、だからこそ私自身も手軽にレンタルを使えるわけですが、安藤氏も書いているように、もうちょっと効率的なやり方はないのかな、と思います。

なお、著作者(作詞家・作曲家など)には、別のルートでJASRACを通じ著作権使用料が支払われています。

ちなみに、日本のCDレンタルに関する権利は国際的に見ても異例だそうで、レコード製作者はCD発売後1年間は「レンタル禁止」の権利を発動できますが、2年目以降50年目までは「事後に利用料を払えばよい」権利に「格下げ」されてしまうそうです。これも、法整備段階で既に貸しレコード業がそれなりの産業になっていたからこそですね。洋盤レンタルを最長1年待たなければいけないのもこの制度のため。一方、たいていの邦盤については、日本レコード協会と日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合の間で取り決めがあって待ちはアルバムで3週間、シングルで0日になっています。そういえば、たしかこの制度って90年代の初頭に改定された記憶があります(当時、突然洋盤の新譜がレンタルに並ばなくなってがっかりしたので覚えています)。

参考:日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合


図書館について

さて、最後には「著作隣接権」から離れて、本の「著作権」について。

これまでさんざん引用なり紹介なりしてきた安藤和宏氏の「よくわかる音楽著作権ビジネス」は、現在第3版となり、「基礎編」と「実践編」の2部構成となっているようです。

よくわかる 音楽著作権ビジネス 基礎編 3rd Edition 安藤和宏著よくわかる 音楽著作権ビジネス 実践編 3rd Edition 安藤和宏著

音楽著作権に関する新しい情報については、本来はこの2冊から引用するのが筋です。ではなぜそうしないのか?それは、近所の図書館になかったからです・・・買えよって感じですが(第一版は買ったんですが)。

個人的には、著作者に対する複雑な思いの筆頭が、この図書館システムです。ものすごくありがたいのですが、ちょっと著作者に申し訳ない気がするのも事実。岡本氏の「著作権の考え方」に戻ると、やはり著作者から「公益のために貸し出されるのは認めるとしても、そのために本の売れ行きが落ちる分は補償してほしい」という声があがっているそうです。言い分はもっともだと思います。

実は、図書館の貸出用ビデオについては、既にこの仕組みが実現しているらしいです。図書館は購入の際に、通常の2倍から10倍の価格を支払い、それをもって補償金の代わりとしているのです。ではなぜ書籍でそれができないのか?岡本氏によると、著作者の側が待ったをかけているとのこと。結局、そうなると図書館の限られた予算内で購入される本がより減ってしまうだろうから、という怖れがあるようです。

じゃあ著作者は何を求めているのか?そのひとつが、税金で補償金を支払うというやり方。イギリスではこれが実現しているそうです。しかし、そうなると図書館に行かない人からも補償金をとることになります。それでいいのか?という議論が当然ながら起こっているのが現状です。難しいですね。

「(著作権については)全員が不満、が普通の状態」と岡本氏は述べています。そのとおりだと思います。その中でいかにバランスを保っていくかが重要になるわけですが、別の言い方をすると、永遠に「解決」はできないことなのかもしれません、著作権に関する問題は。


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