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著作権使用料の計算式とは-岡本薫「著作権の考え方」(3)−著作者の財産権

(1)著作権

┣著作権(著作者の権利)
┃┣(2)人格権(無断で改変、公表、名前表示を変更されない権利)
┃┗(3)著作権(財産権)(無断でコピー、公衆伝達されない権利)

┗著作隣接権(伝達者の権利)
 ┣(4)人格権 → 実演者のみ
 ┗(5)財産権 → 放送局、レコード会社、実演者等

前回は(1)〜(2)についてまとめたので、今回は(3)著作権(財産権)について。


(3)著作権(財産権)

・著作者の「財布」を守る権利。
・「著作権者」とは、この(4)の権利を有する者をいう。
・一般的に、この権利は著作物がつくられたときから、「著作者の死亡した翌年1月1日から50年」まで保護される。

「著作者」は(2)の著作権を有する者、「著作権者」は、その中で(4)著作権(財産権)をもつもの、ということですね。
となると、通常は「著作者」=「著作権者」になるはずが、映画だけは例外だそうです。

・「映画会社が社外の監督と契約し映画を作成した場合」(ほとんどの商業映画はこれにあたる)、著作者は監督、演出、美術などを担当した人全員だが、著作権者は監督等ではなく映画会社になる(監督等には、(3)人格権だけが残る)。これは、映画会社の政治力が強いからできた仕組みである。
・保護期間も、映画は「原則として公表後70年」となっている。

一般的には、映画会社は巨額の投資をして映画を制作するので(4)著作権(財産権)が移転して当然、という説明がなされているそうですが、この本では「それは政治力が原因」とバッサリ。たしかに、小説や音楽で出版社やレコード会社に(4)著作権(財産権)が移転しないのに映画だけというのは変だな、と思っていたら、アメリカではレコード会社にも(4)著作権(財産権)を認めている、つまりレコードそのものを著作物とみなしているそうです。これもやはり、アメリカでの音楽産業の政治力ゆえ、というところでしょうか。

なお、諸外国では映画以外の著作物の保護期間も70年が一般的なので、「日本でもそうしてほしい」という声が著作権者団体からあがっています


音楽についての例

ちなみに、安藤和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス」(1995年初版)によると、日本の音楽業界では、音楽著作者の(3)著作権(財産権)は、契約によって音楽出版社に譲渡され、さらにその音楽出版社からJASRACに譲渡されるのが一般的とのこと。で、JASRACは著作者に代わってレコード会社等に楽曲の使用許諾を与え(なので事実上、著作者は自身で許諾の可否を決められない)、著作権使用料を徴収します。1995年の時点では、CDの場合、

1曲の著作権使用料=(税抜価格-税込価格×5.35%)×0.06÷収録楽曲数

だそうです(インディーズの場合は「-税込価格×5.35%」部分が適用されない)。ということは、税込2100円の10曲入りアルバムだったら1曲あたりの著作権使用料は11.3円ということですね。さらに、JASRACはここから7%の手数料を差し引き、音楽出版社は著作者と契約で定めた率にしたがって取り分を分配します。この分配率、作詞あるいは作曲のみの場合、新人作家だと25%、大物だと33%くらいの率が多いそうです。ということは、このアルバムの作者が新人の場合、1曲あたりの著作権使用料の取り分は2.7円か(計算合ってるかな?)。

放送についてはどうでしょう。商業用レコードの場合は、JASRACの指定する1週間(3ヶ月に1回)に放送されたもののみ著作権使用料徴収の対象になるとのこと。ということは、指定された週以外にどんなにエアプレイされても著作権使用料は音楽出版社や著作者にいかないってことですね。こういう仕組みになっているのは、放送局及びJASRACの手間の問題とのこと。なお、このことからもわかるように、放送の場合、コピーなどと違い、事前に著作権者の許可をとる必要はなく事後の使用料払いのみでよいということになっています。これも、岡本氏曰く、放送局の政治力が強いために生じている例外とのことです。


権利の及ぶ範囲

ところで、無断でコピーや公衆伝達されない権利、とは具体的にはどこまで及ぶのでしょう。

・同じものが結果としてできれば、それはコピーとみなされる。すなわちメールによる送信やファックス送信はコピーになる。
・コピーに関する例外としては、非営利の教育機関での教材作成、教科書への掲載(補償金が必要)、試験問題への掲載(営利目的の場合は補償金が必要)、非営利・無料・無報酬の上演・演奏・上映(学校の学芸会など)などがある。
・送信に関する権利は、同一構内で行われるものには及ばない。したがって学校の校内放送には及ばない。
・著作権法では、「不特定の人」と「特定多数の人々」も「公衆」に加えている。つまり、相手が「特定少数の人」であれば、上演、演奏をしても著作権侵害にならない。電話で個人相手に歌を歌うことなどがこれにあたる。
・特定多数の人々とは?50人を超えると明らかに「公衆」と言われており、場合によっては20〜30人でも「公衆に該当する」という判決が出る可能性はある。

けっこう細かいところまで決められているもんだなと思いました。しかしこういうルールも、ネットの普及でさらに細かい対応が求められているんでしょうね。

次回は、著作隣接権(伝達者の権利)をまとめていきます。



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