庭を歩いてメモをとる

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リチャード・ローズ「死の病原体プリオン」

死の病原体プリオン

英語の先生とBSEについて話していて、お互いこのことについて何も知らないね、という話になり、ちょっと調べてみようと思って読んでみたのがこの本。

読んでみて特にどきどきしたのは、前半、奇妙な病気の原因を探ろうと情熱をかける科学者たちの取り組みと、後半、イギリス政府の失策(BSEが人間に感染する可能性をなかなか認めなかった)を描いている部分でした。つまり、この本は「BSEとは何か」を記した本というよりは、奇妙な脳の病気がなぜ起こるのかを解明していく科学者たちのドキュメンタリーだったのです。

とはいえ、ドキュメンタリーとして興味深かっただけでなく、BSEの基本について整理できたのでメモをとっておくことにします。

基本の整理

  • 一見、何の病気にもなってなさそうなのに、痴呆やけいれんが始まり死に至る「クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)」や、似た症状を示すニューギニアの「クールー」。これらは何が原因なのか?科学者たちの調査の結果、これはウイルスではなく、異常たんぱく質が原因かもしれないかと疑うようになる。殺菌するより酵素を分解する方が感染力を弱められるからである。
  • この異常たんぱく質が脳に入るとどんどん増殖する上、消化も分解もされないまま細胞を破壊するので、脳がスポンジ状になってしまう。このように、正常タンパク質を異常なものにに変えていく病原体をプリオンという。でも、プリオンは生物ではない(解釈あってるかな?)。
  • 異常プリオンたんぱく質は非常に頑丈で、煮沸どころか360度の熱でも放射線照射でも増殖力を失わない。そのため、充分に消毒したはずの硬膜(脳の一部)などを経由した感染も多い。
  • 異常プリオンたんぱく質は、違う生き物にも感染する。このため、BSEの牛から人間にも感染すると言われている。輸血などでも感染の可能性がある。

知らなかったことの中で、特に興味深かったこと

  • 「プリオン説」は、完全に定説化したわけではなく、まだウイルス説を唱えている学者もいる(ウイルスが原因である可能性も否定はできない)。
  • クールーはニューギニアのある部族・地方だけに発生していた。人肉を食べていたことによるプリオンの摂取が原因だが、実は男性は人肉を食べず、女性と子どもだけが食べていた。そのため、クールーは女性と子どもにしか見られなかった。
  • イギリスでBSEが広がった原因として、80年代に牛への動物性飼料(肉骨粉など)の使用比率が1%から12%に増えたことが考えられている。こうなったきっかけは、イギリスポンドの下落である*1。ポンドが弱くなり、大豆などが輸入しにくくなったので、国内で安く買える「牛の肉」を牛に食べさせることにしたのだ。
  • この本では、「CJDの潜伏期間を平均25年〜30年と考えると、ヒトでの流行のピークは2015年あたりになるだろう」としている(本書の出版は1997年)。しかし、英国での変異生CJD(BSE肉が原因と言われるもの)による死者は2000年の18人をピークに減少してきている。参考: 動物衛生研究所「英国におけるクロイツフェルト・ヤコブ病統計」

関連メモ

*1:ポール・マッカートニーが1982年にリリースした"The Pound is Sinking"は、それを考えるとかなり怖い歌に聞こえてしまいます。好きな曲なんですが。


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