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庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

メンタル系の病が増えている理由−セリグマン「オプティミストはなぜ成功するか」

本・まんが 健康 社会と課題

昨年、仕事で「コールセンターのスタッフ退職率を下げるにはどうすればいいか」という座談会のようなものに参加する機会がありました。そこで、オペレーターさんたちがすぐ辞めてしまう職場って何が問題なのか、どうすればそれを防げるかという内容について、初対面の同業他社の方々と2時間ほど話し合ったのです。

そこで出た対策はさておき、その場でほとんどの人が口にしたのが「最近、社会全体の傾向も含め、うつ病などのメンタル面でつらくなったり辞めてしまったりする人が多くなってきてますよね」という事情。

どうして社会的にうつ病が増加しているのか。その場では結論は出ませんでしたし出す場でもなかったのですが、それ以来そのことはずっと気になっていました。

ところが、先日ふと読んだみた本に、ヒントとなることが書いてあったのです。その本がこれ、セリグマン「オプティミストはなぜ成功するか」。

オプティミストはなぜ成功するか (講談社文庫)

重症のうつ病患者は50年前の10倍に増えている(90年代初頭のアメリカの話です。)。なぜか?それに対してこの本では、以下のふたつの理由を挙げています。

ひとつ目は、自己の評価の増大です。「個人の喜び、苦しみ、成功、挫折をかつてなかったほど真剣に考慮する」時代になった。現代は、これまでの時代に比べ、自分の気持ちや感覚を非常に大事にするようになったという点です。

ふたつ目は、共通の認識の衰退です。現代は「国、神、家族、生命を超えた大きな目標への信頼感」が失われ、「アイデンティティや目標や希望」を求める先がない、「丸裸の自己」しかないような状態になってきている。しかし人間は、そういったアイデンティティを求めてしまうものだし、信頼できる大きなものの存在がないと負担を感じるものなのだ、という考えです。

ではそんな中、メンタル面で重荷を感じずにすむにはどうすればよいのか。著者は、個人主義への傾倒をやめ、より大きな存在に身を委ねる、つまり、より大きな存在へのコミットメントを増やすことを薦めています。具体的には、寄付、ボランティアなどを自分のためだけに行うといったことなどです。

ここまで読んで、大部分納得すると同時に思い出したのがフロムの「自由からの逃走」です。

自由からの逃走 新版

ナチスドイツ成立の背景を分析したこの本には、人々は獲得したはずの「自由」を実は重荷と感じており、そこからの逃走の末「絆」を求める。その結果ナチスを支持していったのだ・・・そんな内容が書かれていたように思います。単なる「与えられた自由」だけでは真の幸福にはつながらず、むしろそれは虚無感をもたらすだけ、ということをナチスが存在している時代に指摘しているわけですが、これは現代においても、個人的には非常に感覚的に納得できるものです。そして、これが「オプティミストはなぜ成功するか」で述べられている説にもつながっていくような気がしたのです。

そして、「より大きな存在に身を委ねる」というキーワードから連想したもうひとつの本が小熊英二・上野陽子「“癒し”のナショナリズム―草の根保守運動の実証研究」。

“癒し”のナショナリズム―草の根保守運動の実証研究

この本には、当時大学生だった上野氏による「新しい歴史教科書をつくる会」のルポが収録されています。それによると、「つくる会」に集う人たちは「個より公」を重視し、より大きな「国家」へのコミットメントを増やそうとしているようですし、その背景には現実社会から感じられる虚無感からの「逃走」があるような印象を個人的には受けました。ここに、セリグマンやフロムの言説に重なって読みとれる部分が非常に多いように感じられたのです。

自由はこの上なく価値のあるものではあるのでしょうが、それは無償ではなく担い手にそれだけの「力」を求めるものなのかもしれません。そこをうやむやにして「絆」に身を投げ出してしまうことも、メンタル面に大きな負担がかけてしまうことも、どちらもなんとか避けたいものですが、現実はなかなか厳しいようです。どうすればいいんでしょうね。

いずれにしても、「自由な世の中」で地に足をつけていくことの難しさと重要性を、この「オプティミストはなぜ成功するか」で認識できたような気がしています。なんかタイトルは平凡な自己啓発本のようなイメージですが、実際は実証データも豊富で、上記のような考えももたらしてくれる中味のある力作でした。


(以下、この本のもうひとつのテーマについて)

ちなみにこの本は「なぜうつ病が増えたのか」というポイントだけを考える本ではありません。それはサブテーマであって、メインはあくまでタイトルにあるとおり、楽観主義者/悲観主義者の特徴やそうなる理由についてあてられています。その部分についても興味深かったのでちょっとピックアップしておきます。

「うつ病は一生を通しての意識的な考え方の習慣によって起こる。もしこの習慣を変えることができば、うつ病も治すことができる。」要は遺伝や性格そのものが「うつ」かどうかではなくて、挫折や大きな敗北をしたときに自分自身にどのような「説明スタイル」をとるのかが根本原因なのだ、とこの本では説いています。これがこの本の主要なテーマです。

ではうつ病になりやすい「説明スタイル」とは何かというと、失敗したときに普遍的(ひとつだめなら全部だめ)、永続的(ずっとだめ)、内向的(私のせいだ)な説明を自分自身にしてしまうタイプ。反芻する癖があればさらにうつにはまりやすくなるとのこと。

この「説明スタイル」は8歳くらいですでにかなりはっきりしているそうです。スタイル決定に大きな影響を及ぼすのは、母親*1、大人の非難、子どものころの人生の危機とそれをどう乗り越えたか*2、という3つの要素。これらがある意味その人の性格を形作っていくようです。

ただ、だからといって、悲観的な説明スタイルの人はそのままずっと悲観的でい続けないといけないわけでもありません。悲観的な説明を自分自身にしようとしたとき、それに反論することと気をそらすことを続ければ楽観的になることもできるそうです。しかし個人的には、悲観的な人にとってそれは相当難しいんじゃないかなと思えますが・・・説明スタイルを簡単に変えることができるなら苦労はないですし、うつ病の方からするとそんな簡単なもんじゃないんでしょうし。説明スタイルについては、メンタル系の病になるきっかけのひとつ、くらいの受け止め方が自然な気がしています。

いろいろ書きましたが、「楽観/悲観」を形作るのは自分自身への説明の積み重ねなんだ、という説は、あたりまえといえばあたりまえですが、体系立てて説明されるとなかなか興味深く読み進められました。私自身、自分の「説明スタイル」を客観的に見直すきっかけになりそうです。

*1:失敗したときに「いつも」という言葉をよく使う母親からは悲観的な説明スタイルを構築されやすい、など。

*2:大恐慌時代に貧困を経験したが、その後立ち直った経験があると楽観的な説明スタイルになるが、立ち直らないと悲観的になる、というデータが紹介されていました