庭を歩いてメモをとる

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桐野夏生「グロテスク」

グロテスク

東電OL殺人事件(一部オウム真理教事件を含む)をモチーフにして書かれた小説。佐野眞一氏のルポルタージュを読んだのがきっかけでこちらにも手を伸ばしてみました。

勉強はできるが平凡で「生き残るために悪意を身につけた」姉。怪物的なほど美しく誰もが心を奪われるその妹(姉はその度に比較される)。その姉と、金持ちの師弟が集まる私立女子校で同級になり、「主流になりたい」「認められたい」という情念を燃やし続ける女性。中国からの不法入国者・・・そんな人間たちが、嫉妬・見栄・自己正当化・吝嗇などを渦巻かせてもがく姿をごった煮にした濃密な味付けの小説でした。

人間の持つ、他人との比較の中でどう生き残っていくかという「業」をこれでもかと詰め込んでいた上、2段組500ページ強という分量ともあいまって、東電OL殺人事件とは切り離して読んでも読み応えがかなりありました。桐野夏生はこれが初めてでしたが、他の作品のことが気になり始めています。

その一方で、実際の事件との関わりについても、なるほどと思った描写がいくつかありました。例えば、事件で、被害者の女性がコンビニでおでんを買うとき、具を別々の入れ物に入れてそれぞれにおつゆをたっぷり入れていた、という証言について。これは佐野氏の本でも被害者の奇矯な行動のひとつとして取り上げられており、佐野氏だけでなく私もその理由がさっぱりわからなかったのですが、桐野氏はこの小説で、登場人物の言葉を借りて「満腹感を得てダイエットに役立てたいからに決まっている。そんなこともわからないのか。」と書いています。そういうことだったのか。たしかに被害者女性はかなりやせており、拒食症に近かったらしいし。

事件の根源に渦巻く情念のようなものを描いた力作、という印象です。


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