庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

paul mccartney driving japan 2002 - 11月14日その2(東京公演3日目・ドーム最前列へ)

奇跡その1

さあ、これで自分のできそうなことは全てやった、後はライブを楽しむだけだ、という、ある種のふっきれた気持ちでタクシーに乗り東京ドームに向かいます。ふと我に返って車の窓から外を見ると、当たり前ですがスーツ姿の人がたくさん。今更ながらによく月曜から木曜まで4日間も休みがとれたものだなと感じます。何かあった時のために、職場のメールを出先でも読めるようにしていたのですが、事務連絡の他は、職場の先輩からのこんなメールが届いただけでした。「ビートルズがやって来たヤアヤアヤア 今頃君はマジカル・ミステリー・ツアーへ」 笑顔で送り出してくれた職場の先輩・同僚にも、この4日間沈黙してくれたクライアントにも感謝。

ドームに着いてみると、「赤シャツ」で一緒のMkさんがいたので、一緒にドームの外の階段に座って雑談をしました。しかし、ホテルでの緊張感が薄れ、かわりに蓄積された疲労が一気に出てきたのか、だんだん頭が痛くなってきました。とりあえず暖かいところで休もうということで、ファストフードの店に入ります。

しばらくして、この「赤Tシャツ」企画の発案者、Nさんもやってきました。Nさんは、本来は今日、九州の自宅に戻っているはずなのですが、ある「予感」があって東京に残ったのです。その「予感」とは・・・

この「赤Tシャツ」のことが12日朝のテレビ番組で放送されたことを、ある方が会社の上司に話したところ、なんとその上司の方が今回のポール側スタッフと連絡が取れる立場にあるとのことで、「面白そうだからポール側に伝えてみる。何かできるようだったら連絡する」との話があったということでした。その「何か」があるなら東京最終日の今日ではないか、そしてその「何か」はひょっとすると実現するんじゃないか、というのがNさんの予感だったのです。

私はというと、もしポール側のビデオクルーが私たちを撮ってくれたらなあという期待は持っていましたが、できるだけそれを心の底に押し込めようとしていました。

そんなふうに、わずかな期待と押し問答していたその時、その「上司に話してくれた方」が血相を変えて店に飛び込んできました。この人がこんなに息せき切って飛び込んできたのは初めて見ました。そしておっしゃいました。

「最前列で13連番取れた!」

一瞬その場の時間が止まりました。 「赤シャツ」全員、「P-A-U-L-M-c-C-A-R-T-N-E-Y」13人分の席が確保できたというのです。奇跡だ。こんなことってあるのか。 ふと見ると、Nさんの目からは涙があふれていました。

それからのことはしばらく記憶がありません。最初に思い出せるのは、まだドームに来ていない「赤シャツ」に携帯をかけまくり、「とにかく仕事を早く終わらせてドームに来て」とメッセージを伝えたことです。できるだけ早く来て、もともと持っているチケットを最前列チケットに引き換えてもらわなくてはならないからです。あまり時間がない・・・夢から醒めて一転、焦燥感が体をかけめぐります。

時間がたつにつれ、緊張した面もちで一人一人が集まってきます。ある程度の顔ぶれが集まった時点で、ドーム21番ゲート付近の階段の脇に行きます。楽屋に通じる入り口の一つなのでしょうか、関係企業から送られた花輪がいくつもあります。そこで関係者の方とチケットの交換をします。今日の私の席はスタンドだったけど、それが最前列の真ん中の席に替わってしまいました。手にしたチケットの切取線には、「御招待」というスタンプが押されてあります。手が震えます。実物を手にしても、にわかには信じがたい。

気がつくと頭痛は完治していました。


最終日、ドーム近くの金券ショップでも、当然のようにチケットは完売。


東京公演3日目

ドームに入場してもまだ完全には信じられない気持ちがありました。チケットが本物なんだろうかとかそういうことではなく、本当にこんなことがあるのか、という気持ちです。それでも、そんな私の気持ちとは無関係に、このチケットを係員に見せるとどんどんアリーナの前に進めます。そして、気がついたら、確かに本当にアリーナの最前列の真ん中に私たちはいました。13人で。

まずは、並び替わらなくては。ちゃんと「P-A-U-L-M-c-C-A-R-T-N-E-Y」の順番に。狭いアリーナの席の間でごそごそと入れ替わりが行われます。並び終わって、ふう、とひと息つくと仲間内の誰かが言いました。「あ、みなさん、逆ですよ~」そうだ。ポール側から見た順番にしないと。私たちは自分たち側から並んでいたので、Pが左端、Yが右端に並んでいたのでした。だめだ、みんな舞い上がっている。でも気づいてよかった。

ちゃんと並び終えてしばらくすると、白髪交じりで髪を後ろで束ねジーンズを履いた、西洋人にしてはあまり背が高くない男の人がこちらにやってきます。私たちに「英語は大丈夫?」と訊くので、みんな口々に「少しだけなら」と応えると、頷いた様子。「ファンクラブなの?」と訊いたので、私が「ネットで知り合ったんです(実際は「パソコン通信」ですが説明が難しいので・・・)と応えると、「ほう、ネットでねえ・・・」とつぶやき、しばらくして去っていきました。後でMさんに「今の、ジェフ・ベイカーよ」と教えてもらって驚きます。やっぱりここは、普段いるのとは違う世界だ。ポールのマネージャーと、まるで道を訊いてきた外国人に対するように会話できるなんて。

プレショーが始まります。昨日スタンドで見たのとは全く違う光景が展開していきます。当たり前ですが、ショーの全体像を見るならスタンドのほうが適しています。しかし、目の前で見るプレショー、これはポールの夢を再現したものらしいですが、本当に自分も夢の中にいるような感覚になっていきます。そんな中、突然空気をつんざくあのギターは、衝撃的で体中のアドレナリンが全開でほとばしるような音だけど、夢から醒めるのではなくより深い夢に誘う音のようにも聞こえます。ああ、ついに。

ポールは、本当に目の前に立っていました。

つづき


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